記事: 【ARTIDE After Talk①】木原 千春さん
【ARTIDE After Talk①】木原 千春さん
先日、プロジェクト初のアイテム「マルチコンパクトウォレット」をクラウドファンディングMakuakeでリリースしたARTIDE。
TIDEディレクターの内海が参画いただいた気鋭芸術家の方々を訪ね、「アートと地場産業の融合」をテーマに取り組んだ当プロジェクトの過程での心境や思い出、そして時に思わぬお互いの本音が漏れてしまった対談の模様をお送りします。
一人目は木原千春さん。今回は木原さんのアトリエにお邪魔し、お話を伺いました。
ARTIDEページやnote(木原さんインタビュー)と一緒にお楽しみください。
撮影:久保 秀平
インタビュー・構成:岸本 圭介
※対談は2020年11月に行いました。
Index
Talk
内海:木原さん、この度はARTIDEプロジェクトへの参画とリリースまでの併走、本当に有り難うございました。クラウドファンディングではリリース後に即完売と大変ご好評をいただいております。
木原:こちらこそ、ありがとうございました!
内海:木原さんはこのプロジェクトの一番最初から関わっていただいてました。本当にゼロからのスタート、何をつくるかかも決まっていない段階から何を一緒に作れるかを考えて・・・そんなのをLINEや電話でやりとりして「あーだ、こーだ」言って、何度もデザインをやり直していただいて・・・という長い道のりを共に歩んでいただいてました。でも、結局木原さんに対面でお会いしたのは、完成するまでにたった一回だけなんですよね。
木原:ですよねー。私もこういうプロジェクト初めての経験でしたし、本当にわからないことだらけで・・・もっと上手に進行できたこともあったかもしれないけど、この完成品はとっても気に入ってますよ!
内海:木原さんはこのプロジェクトが始まる時どのようなな印象・気持ちでしたか?まだまだイメージが見えてきていない状況だったかと思いますが、ワクワクだったのか怖さがあったのか。
木原:えっ、楽しみしかなかったですよ!
内海:それは嬉しいですし、それはすごいですね!
—— 楽しみしかなかった理由は何ですか?
木原:だって、今までやったことのない仕事のお話でしたし。さらに、職人さんがいて何か挑戦的で前衛的なブランドと何か一緒に創作できるというのは、どうなるかわからない分ワクワクがありますね。なんだか前例のない話にはネガティブに想像するとどんどんネガティブになる思いが強くなりがちですが、でも私にはそんなことより面白いだろうなっていうイメージでした。そして、どうなるかわからないけど、なんとかなるだろうしとも思っていました(笑)。
内海:前向きですね!
内海:確かに、木原さんは終始楽しそうでいてくださいました(笑)。
木原:結構、素直にやってましたね(笑)まだ形になってないもので、これからそれをどう形作っていくのかもまだわからない中で、色々起こってもないこと考えても疲れるだけだし。だから、最初から創作していく楽しさはやりながら見えてくるのだろうなって思ってました。
内海:TIDE側では色々と制約は決めていて、その中でやっていきましょうというのはありました。そして、全ての作家さんがそれに応えてくれた。今考えると本当によくできましたね、しかも会わずに。今でも不思議です(笑)。
木原:Zoomで打ち合わせ、LINEで細かいことやりとりしながら、本当によくやりましたね(笑)。
—— ZoomやLINEを使ってコミュニケーションしながら、ここ東京と遠く離れた香川(TIDEの拠点)で進めていくモノづくり。振り返ってみて何か困った楽しかった思い出はありますか?
木原:ちょっとしたストレスだったのは、細かいところの仕様を手元で見せながら、ニュアンスを交えて伝えるのは難しかったですね。でも、文章にすれば理解できるし。そんなに困ったことはないですね。おかげで初めてのZoomも経験できて、逆に楽しかったです!
内海:やはり作ってみないと、モノの良し悪しの判断ができませんから。
最初はパッチワークの配色ではこれではありませんでした。ちょっと色が足りないねってなったのです。でも、二回目ではもう決まりましたね。それで縫ってみて見せたら「これだ!」ってなって。
木原:「いいじゃん!」ってなって。
内海:配色が決まった革を木原さん達に送って、その上に描いてもらって送り返してもらって。そして、届いたら、「あ、すげー!」ってなったんです。原画はカッコいいじゃないですか。でも、革に原画をベースに落とし込んで描いてもらったら、可愛かった。この“カッコいい”と“かわいい”のギャップが、いい意味で違和感があったんです。カッコいいをイメージしていたので。
木原:ちょっと意外だったって仰ってましたもんね。
内海:原画を落とし込むってこういうことで良いのかな?と解釈が難しかったんです、自分の中で。
木原:わかります、混乱しますよね。
内海:でも、それがアートなんだとそこで思ったんですよ。決して原画のまま落とし込めばいいというわけでもない、と。
最初見たとき、これが猫かどうかわからなかったのですもん、だって耳がないから(笑)。
木原:ほんとだ、今気づいた!
内海:そして、色々と話を聞いていくうちに「このギャップがいいんだ!」と完全にそう感じたんです。
木原:普通に落とし込むのではなく、ちょっと考え方を変えて思い切って描いて遊んじゃおう!ってなって。こういう感覚的なのが、芸術寄りのアプローチですね。
その代わり、この背面の猫だけだとイラストっぽくなっちゃうから、自分が絵画でやっている感覚をこの革の上でも取り入れてバランスとって表現しました。
内海:そう、これでバランスがとれているんです。
内海:本当に驚いたのが、ここの感性なんですよね。なおかつ、どこに一番神経使ったのかというとこの線らしいんですよ。猫ちゃんはパッと描けるらしいんですけど、一番神経を研ぎ澄ますのがここ(表面)とここ(裏面)の線。意外だったんですよね。
木原:この財布の中ではこの表面とこの裏面にしか線は入れられないんで。
どこでもいいわけじゃない。ピンポイントです。
内海:この話を聞いたときは感動しました。これがあるからアートになったんだと思いました。
木原:もう少し原画を大人っぽくじゃないけど、忠実に踏襲するほうがいいのかなって最初は思いました。でも、革の生地を見て「なんかあんまり気張りすぎてもな」と。そこで、この猫の絵がポーンって出てきて。「いいじゃん!」って思って。さらに、これだけじゃなくてもっと感覚的なものを入れて、そして全体的に構成して・・赤も緑も元気な色も入っているし、成立するのかなって。
内海:成立しましたね!完全に。
木原:中面は全部黒がいいなって。
内海:シンプルに仕上がりました。木原さんモデルだけ、金具がシルバーなんですよ。他の方は全員ゴールド。そのシルバーの金具は、木原さんの指定でした。
木原:逆に嬉しいですね(笑)。
木原:この配色にしようと思った時に、金具はシルバーしかないなって思って。金具がゴールドだったら、金のパッチワーク部分が弱くなっちゃうし。中は色をつけたくなくて、そしたら黒が締まって見えて良いなと。
内海:すごく良かったんですよ、全体的な配色のバランスも。
木原:本当に上手くできましたよねー(笑)
内海:奇跡的な感じですよ、しかも会わずして。
これ以上も以下もなく、足すところも引くところもないように、僕的にも思ってます。
そして、これ本当の話ですが、僕のしばらくご無沙汰な友人から木原さんモデルのウォレット欲しいと連絡あったんです。
木原:嬉しい!話、盛ってません(笑)?
内海:高校卒業して以来会っていない人、ほぼ会ってない友人とかから久しぶりに連絡きて「これかっこいいから欲しい」って。TIDEのサイトやInstagramで見たそうです。
木原:そんな方たちから連絡いただけるなんて、、企画の吸引力があったのでしょうね。
内海:昨日久しぶりに会った友人もこのARTIDEという企画をみて、8年ぶりに連絡くれたのがきっかけです。
木原:えっ、すごくないですか!?それ人生のちょっとした出来事ですよ!
内海:僕の人生は、ARTIDE抜きでは語れないほどの感じにはなってきています。
本当に有り難かったという。。そんな、お話です(笑)。
木原:重要な出会いもあったし、関わる人皆が高まりあっていく、素敵なプロジェクトですよね。なんだか、嬉しいですね。
内海:そうです、そうなんです。
—— このウォレットをお客様にどういう風に使って欲しいですか?
木原:これは“持ち歩けるアート”として、最大限傷まないように剥がれないように描いていますので、普通に使っていただきたいって思います。購入いただいたお客様からは「勿体ないので飾っておきます、宝物にします」とも言っていただいていてそれもとても嬉しいですが、もっとアートをより身近に感じてもらうというコンセプトで作りましたので、日常で使っていただけると嬉しいです。アートって日常の中で距離が遠いなって思われている方こそ、日常的に持つことで距離が縮まるといいなと思うので。これがきっかけでアートを好きになって、観に行ってくれたらいいなと思って。
内海:僕らのコンセプトを木原さんはめちゃくちゃ理解していただいていますね。
だからこそ、そうであってほしい描き方で描いてくれている。剥がれたりすると悲しいからと、そこは本当に気をつけていただいてましたしね。実験も沢山して。
木原:そうそうそう。
木原:革に色を載せて割れたりしないか、ひび割れしないか、耐久性があるかとか。鞄の中に財布入れたら、擦れるじゃないですか。それに対応できるかなとか。
内海:そこの確認を作家さんそれぞれとしないといけなかったので、難しかったですねー。
木原:でも、これすごい勉強になりました。
内海:本当ですか。良かったです、良かったです。
内海:あっ、そうだ。実はこれ猫が2種類いるんですよね、怒っている猫と笑っている猫と。
ツンとヤンチャのパターンがあって。
それをお客様にどちらか選んでもらっているんですよ。今、ちなみに人気は半々です!
木原:あっ、意外ー。ヤンチャの方が人気かと思いました!
内海:偏りはなかったですねー。最後どうなったかまたお伝えしますね!
—— ツンとヤンチャを両方描こうと思った理由は?
木原:ここまで縫ってない状態で組み合わせた生地をもらった時あったじゃないですか。それが二枚あって、一枚はこれを描こうというのを決めていました。そして一枚描いてるうちにもう一枚は表情変えてみようかなって思って。生地が一枚だったら表情も1パターンになってましたね。
木原:このウォレットはアーバン工芸の職人さんたちが革を使って手縫いで仕上げてるじゃないないですか。そこの上で描いたものが縫われて最終商品になってお客様に使っていただく・・・要するに売り物になることを真剣に想像して描きました。この絵は手書きだから、お客様からオーダーを受けてから書き換えることもできるので、表情は1パターンでなくても大丈夫であろうと。
木原:表情が2パターンあれば、それをお客様は選ぶじゃないですか。お客様が自分で選びに選ぶことで、更に愛着を持っていただけるかなと思い。
内海:実際にどのお客様も「どっちの表情も良くて、めちゃくちゃ迷いました」と仰ってました。「何故、こちらの表情にされたのですか?」とまたお客様と話せるのもいいですよね。これは木原さんならではですよね。
木原:これ、内海さんだったらどっちの表情選びます?自腹で買うんだったら(笑)。
内海:笑っている方を選びますかね!僕は自分が結構笑っていることが好きなので。
木原:いつも陽気な感じですよね(笑)。
内海:(笑)。僕は自分の陰の部分を隠すために笑っているんですけどね(笑)。高校くらいからずっと。自分は弱いので笑って元気を出すタイプです!笑う角には福来たる感じです。笑っていたら皆楽しいかなーって(笑)。
木原:まさか、そんな表情の裏側を知れるとは思いませんでした(笑)。でも、すごいですよね。笑顔でいることって相当勇気がいることだし。エネルギーを使うことでもあるし。あとその相性とかもありますよね。生理的に合わなかったらアウトですからね、頑張っても。
—— 普段の制作活動での着想の源泉を知りたいです。普段インスピレーションを受ける場所、どなたかの個展や作品などはありますか?
木原:インスピレーション受けにか・・・そうですねー。10、20、30代前半くらいまでは、他の方の作品を見に足繁く通っていました。でも、今はそれは減りました。ずっとここのアトリエにいますね(笑)。
内海:(笑)。
木原:昔は、そういうのを観に行かないと自分の頭の中で発想が枯渇すると思ってたのですけど、意外とそうじゃないことに気づいて。自分の中の摂理で。だから、自分の外側に求めたら材料はいっぱいありますけど、内側という頭や心の中に想像力の宇宙はあると思ってて。そしたらこの場所にいても、発展することが実際にできてきています。あと、自分がこれまで20年間やってきた仕事がようやく今の制作活動を助けてくれるようになってて、培ってきた想像力が今また形を超え、そしてまた新しいものと組み合わせて・・・なんかどんどん太くなってきているので。でも考えるのは内側の宇宙じゃないですか。だから、ずっとここにいてもできるなって。なんか禅みたいな話になっちゃうんですけど・・・もしかしたら、あまり動きたくないからというただの言い訳かも(笑)。
—— 着想の基になりそうな外部情報は意識的に見ない、または頼らないようにしているとかありますか?
木原:頼らないわけでもなく、絶対に見ないようにしているわけでもないです。そういう感覚は無意識に任しています。常日頃アンテナは立てています、これも無意識ですが。絵を描いてないとき、例えば、外歩いている時とか勝手に察知するんですよ。自分が今制作に必要としている情報が、それが具体的に何なのかわからなくても。磁石みたいなのがあるから。アンテナが察知して、パンって気づきが起こる。そして、それを噛み砕いて制作に落とし込んでます。こっちの意識と無意識で両方やりとりしている感じはありますね。これが刺激になっている。
木原:あと、自身の表現のコンセプトが「エネルギー源を作りたい」というのがあるんで。一つのあるものがエネルギー源って自分たちもそうだし自然界もそうだし虫とか海とか全部そうじゃないですか。人間の根本的な部分、細胞だってそうだし。そこの求めているお皿が広いのです。自分の中にもエネルギーがあるし、それをどうやって絵画で表現しようかなーって考えがベースとなり、日常の制作があります。
作家さんはそれぞれ求めているものや表現しているものが違いますが、私は最初から“根本的なエネルギー源になるところ”そこに惹かれていましたね。それを絵画の力を借りて表現できないかなと、オリジナルで。だからモチーフは生き物が多いですよね。
木原さんの愛猫「そーすけ」くん
—— その話を伺った上で、木原さんの絵をもう一度見ると、さらにエネルギッシュさを感じますね。エネルギッシュなんだけど艶さがあったり、エネルギーの陽の部分と生物固有の陰の部分が見えたり、多面的に捉えることができますね。
木原:おっしゃる通りです。このモチーフの、猫のエネルギーとか猫の生き物としての面白いところを引出したいし、コンセプトのところも併せて剥き出しの状態で描きたいなと。
内海:パッと見るとカッコいいんです、なのに、いい意味で普通にキレイな絵ではない。でも、全体的にバランスは取れている。なぜこうバランスがとれてしまうのか・・と深く理解を求めどんどん引き込まれていく感じですよね。きっとこれらの色を使うことを初めから決まっていたのではなく、やりながら決まってきたのはすごいなと。絶対できない!だから、プロなんですけど(笑)。
木原:猫の大体のポーズは決めて、あとはここらへんの色を組み合わせたいなとはもちろん決まってるんですよ。だけど、描きながら偶発的なものがあるじゃないですか。自分の想像を超えたものとかのパッと見えたら、あっ、必要だと思って取り入れて・・・そこはやりながらですね。
—— 木原さん、本日はいろんなお話を聞かせていただき有り難うございました。
最後にウォレットを囲って
Profile
木原 千春(きはら ちはる)
1979年山口県生まれ。幼少期から画家を志し、高校を中退後、独学で絵を描き続ける。1999年ギャラリー伝(東京)にて初個展、数々の個展を開催、グループ展に参加。「生命の気力」を、動物や昆虫など自然界のモチーフを使って色と形とストロークを生かし、描く。道具だけでなく手や肘や足など体をつかってダイナミックに描く作品群は人々に強烈な印象を与える。
近年は東京のロイドワークスギャラリーでの個展や、星野リゾート「星野リゾート界 長門」での作品制作など精力的に作家活動を行う。