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記事: 【ARTIDE After Talk②】本橋 孝祐さん

【ARTIDE After Talk②】本橋 孝祐さん

【ARTIDE After Talk②】本橋 孝祐さん

先日、プロジェクト初のアイテム「マルチコンパクトウォレット」をクラウドファンディングMakuakeでリリースしたARTIDE。

TIDEディレクターの内海が参画いただいた気鋭芸術家の方々を訪ね、「アートと地場産業の融合」をテーマに取り組んだ当プロジェクトの過程での心境や思い出、そして時に思わぬお互いの本音が漏れてしまった対談の模様をお送りします。

二人目は本橋 孝祐さん。今回は本橋さんのアトリエにお邪魔し、お話を伺いました。

ARTIDEページnote(本橋さんインタビュー)と一緒にお楽しみください。

撮影:久保 秀平
インタビュー・構成:岸本 圭介
※対談は2020年11月に行いました。

Index
           

Talk
           

#アイドリングトーク

本橋:絵を始めたのは物心つく前で、多分3歳とかそのくらい。ずっと描いてるんですけど、キャンバスを使って描き始めたのは2013年ですね。

内海:7年前!

本橋:2013年はスウェーデンに住んでいて、サラリーマンとして駐在していました。スウェーデンって冬はずっと太陽が出ないんですよね。11月から2月頃まで日中も真っ暗で。そのときにアーティストとして活動しようと決めて、キャンバスを買いに行きました。それがきっかけですね。

内海:その時に決められたのですね。

本橋:そうですね。日本人もそんなに多くないし、自分の存在を理解して記憶している人間は周囲にいなくて、「今死んでも自分の生きた意味がない」という感覚になったんです。それって自分の命をとても無駄使いしているように思えて、だから自分の中に渦巻いているエネルギーを作品化して、自分の身体以外のところにエネルギーを残そうと。

内海:今はもうずっと描いている感じですか?

本橋:基本的にはずっと描いてますね。遊んだりもしますが、頭の中はずっとアートのこと考えてます。本を読んだり、建築を見に行ったり、あとは料理人や研究者といった違う分野でクリエイティブな人と話したり。最近一番刺激的だったのは、アンドロイドを開発・研究している大阪大学の石黒浩先生で、僕は彼の関わっているテクノロジーとは一見正反対のことをやっているけど、“人間とは何なのか”、“命や心とは何なのか”と言う視点のベクトルに、とてもシンパシーを感じています。そうやって一見アートに関係ない物事でも、好奇心に従って色々吸収しようと心がけています。

本橋 孝祐さん

#本編

内海:本日は宜しくお願いいたします。前回、noteに文章を書いていただきました。そこでは絵を始められたきっかけや、普段どういうイメージで描いてらっしゃるのかとか綴っていただいたかと思います。今回は実際にARTIDEプロジェクト始まって以降の話についてです。我々TIDEとしては初めての挑戦でしたが、本橋さんから見て、一緒に作っていく過程での心境や思い、完成した作品見ての感想、その辺りをざっくばらんに伺いたいです。

本橋:わかりました、宜しくお願いいたします。


—— このARTIDEの話がきたとき、どう思われましたか?

本橋:嬉しかったです!僕は人と仕事をするのが好きなので、この話はすごく嬉しかったのを覚えております。と同時に、革財布の上に直接描くのは・・・正直難しいなぁとも思いました(笑)。それでも、素直に嬉しかったです。

内海:難易度の高さは承知の上でしたが、受けていただきありがとうございます(笑)。

本橋:あと、TIDEやアーバン工芸の歴史があるじゃないですか、そこに惹かれました。自分とは表現方法は違うけど、理想を持って革製品を通じて表現をしている人たちと、一緒にものづくりをしてシナジーを生み出していくのが素敵だな、と。TIDEのサイトにあるブランドストーリーも何度も読みました。そうだよなーと共感しましたね。

内海:ありがとうございます!実は僕はもともとメンタルが弱く、過去には相当思い悩み落ち込んだ時期もありました。だからこそ形勢逆転への思いをブランドにも込めました。僕はあえて最近は「以前はこうだった、今はこうだ」と過去と今の精神状況を周りに言うようにしています。そうすると「自分もそうでした」と打ち明けてくれる人もたくさんいます。日本中でみれば相当多くいるでしょうね。

本橋:そうですね。僕も自分に嫌気が差しすぎて、自分の足を包丁で刺そうかなと思ったりする時もあります(笑)。これは極端な話かもしれませんが、意志を持って何かをすると、必ず壁にぶち当たるんですよ。

内海:そうなんです、動けば動くほど壁にぶち当たりますよね。それを一つ一つ乗り越えていけば、少しずつ良くなってくる・・・そんな感じですよね。こういうメンタリティの話は本橋さんと合うのではと思い、つい話してしまいました(笑)。

本橋:TIDEの“形勢を逆転する”ってワンフレーズはすごく惹かれました。まさに今、このコロナ禍でグッとくる言葉ですよね。だから、今の世の中や自分にとって意味があり、やるべき仕事だよなと。


—— コロナ禍でプロジェクトを進めなければならない状況下でZoomやチャットを駆使して会わずに一緒にものづくりしていく必要があったと思いますが、やりとりや進行に苦労されたこと、または楽しかったことはありましたか?

本橋:コミュニケーションでの苦労はないです、むしろ新鮮で楽しかったですかね。やはり苦労したのは、見せ方でしょうか。この作品を見られる方の多くはおそらく現代アートに馴染みがないのではないかと仮定していたので、その方々に楽しんでいただけるものを見せていくためには、と考えるのがすごく難しいなと。つまり、若干デザイン寄りの思考になるんですよ。それは普段の自分のやり方と違うので、苦労しましたね。持つ人のことを考えたり、あとは他の4人の作家さんとのラインナップで並んだときのことを考えたりしました。あと、僕自身財布は黒は好きなので、絵を描くなら内側がいなとか。でも、ただ単に革財布に僕の絵を描きましたよ、では意味がないので、僕のテーマとTIDEブランドコンセプトを融合調和させることを念頭に置きながら取り組んでいました。なので、表側は潮の流れ・潮の動きを表現し、内側には人間の脈動を表現することを考えました。

内海:潮流と人間の動脈。流れるものは違えど、親和性はありますね。

本橋:マクロとミクロ、または自然のものと人間のもの。それってすごくリンクしているものがありますよね。


—— 外は自然、中は人間の内なる部分を表現・・・それはいい意味でゾクっとしますね。

本橋:そうです、そうです。それをポケットに忍ばせるってめちゃやばくないですか!?

内海:確かに、やばいですね!僕の周りの反応で言うと、反響は男性が多いです。あと、男性脳っぽい女性も買いたいと言ってくれています。

本橋:僕の周りでは女性のほうが買いたいって言ってくれていますね。

本橋さんのアトリエにて


—— 先ほど、使われる方のことを想像して取り組んだと仰ってましたが、どういうシーンやシチュエーション、感情で使われることを想像されました?

本橋:それはそれぞれの方が納得して楽しんで使ってくれたらいいなと思ってます。でも、せっかく手にとってくださるので、できればどういう思いで作られた作品なのかを理解共感いただき使ってくださると嬉しいなと。それは、僕だけの思いに限らず、TIDEのコンセプト、東かがわ市の地場産業の歴史全てです。

内海:本橋さんはこのプロジェクトのことめちゃくちゃ理解してくれている。

本橋:工場、職人さんの手作業・・・で作られているものってなんとなくでできているものではないですよね、思いを持って時間とエネルギーをかけないと完成されないものですよね。そういうことに気づくことで、これがただ財布を使うことに止まらない、財布を通じた良い体験になると思いますね。


—— 冒頭で、怒りをぶつけて作品を描いたってエピソードもありましたが、普段どういうことを考えながらアート活動をされているのでしょうか?

本橋:僕がずっとやっているのは、一言で言えば「真実を形にすること」です。要するに、自分や他の人たちにとって信じるに値することや確かであることを形にしたいと思っているんです。それは何故かというと、僕の視点で考えるに、芸術や美術というのは視覚を通してこの世の中や人間などを認識するための媒体なんです。目はセンサーで、脳はそのセンサーで受け取ったものを解釈するプログラム。そう考えた時に、アートや絵はある物事の見方を提供する側面があると思ってます。例えば、“デュシャンの便器”。あれによって芸術というのは目で見るものではなくて考えるものなんだ、ということになりました。モナリザによって人間というのは遠くのものが小さく、近くのものが大きく見えるということを共通認識として提示されたわけです。では、自分は絵の中に何をメッセージとして込めるかというと、「確かであると思うこと」なんです。作品をつくることも、見ることも、認識して受け入れるということなんですよ。ある絵は絵の具のしぶきを使って描いているんですけど、テーマは「小さなものが集合して全体を構成している」です。それってもう確実に宇宙の普遍的な真理なわけで。それを見ていただくことで“自分も多くの人との関わりの中で成立している存在だ”って伝えたいなと思ってます。

内海:とてもわかりやすく、面白いです。アートや絵と見る人との関係性を理解していると、アートがぐっと楽しみやすい存在になりますね。 

TIDEディレクター 内海

 

本橋:僕は今のところ大きく3つシリーズがあって。1つは飛沫(しぶき)で表現する、小さな物の集合。2つ目は手を使って描いたもの、衝動。善悪やモラルは時代によってコロコロ変わるけど、自分の中から出てくる衝動は完全に存在するものだから、その衝動自体を善とか悪とか振るい分けずにそれを信じようと。TIDEはこのシ2つ目のシリーズとして描いてますね、ちょっとキレイに描きましたけど(笑)。


—— そのキレイに描いたってことが、使い手への意識や配慮なのかもしれませんね。

本橋:そうですね。コンセプチュアルにし過ぎると、そういうのを求めてない人もいるし・・・。普段馴染みがない方でも、アートに接点を持つきっかけになってくれたら嬉しいなと思いながら描きましたね。

内海:アートとデザインの狭間への挑戦ということもありますよね。

本橋:ですね。あと、今年の話で言うと・・・これが3つ目のシリーズですが、絵具を燃やして表現しているんですよ。

内海:燃やした!?どういうことですか!?

本橋:先にエピソードになりますが、前、荒川の河川敷に油絵の具やキャンバス持っていって、火を着けたら、ワーって火が上がって(笑)。途中、警察の方が二人来られて「何をしているんですか?」って聞くので、「アートです」って答えました(笑)。そしたらめちゃくちゃ反応に困りながらも、一連の作業が終わるまでずっと見張っててくれました(笑)。この燃やして描いた作品はブルーム、命が咲くことをテーマにした作品なんですけど。2020年は「生きることは美しいことなんだ」という事を伝えたかったんですよ。では、生きるって何なのかというと、エネルギーを摂取し代謝しながら自己形成し続けること。ちょっと難しい話をすると、1977年のノーベル化学賞を獲ったイリヤ・プリゴジンという学者が、一定の入力のあるときにだけその構造が維持され続ける構造を発見して「散逸構造」と呼びました。渦潮や炎がまさに散逸構造で、そのとき「生命と非生命の間に境界はないんだ」って衝撃だったんです。つまり生命を表現するために命を使う必要はなくて、その時に油絵の具は燃えるってことにも気づいて、早速このアトリエで燃やしていたら・・・自分の身長と同じくらいの火柱が立って(笑)。急いでバルコニーに絵を出したら、バルコニーにあった発砲ウレタンに引火して、この部屋ヤバいみたいなことになったんですけど(笑)。つまり、命を表現するのに燃焼って感覚的にも、仕組み的にもすごく適切だと思ったんです。油絵の具やキャンバスってまるで肉体のように感じるんです、僕は。じゃ、その肉体が燃焼して僕らは少しずつ物としては劣化していくわけですけど、その様子や痕跡が美しい作品になっていれば、僕らが生きることは美しいことなんだと肯定できるんじゃないかなと思って。で、今回は燃やして表現しました。


—— エピソードもですがテーマや表現に至るまでのプロセスもとても面白いです。正直、燃やすと聞いて、もっと直感的に表現方法が思いついているのかと思いました。失礼な感想をもってしまい失礼しました。

本橋:最初は、ロジカルではないんです。燃えたのを見た瞬間は「おっ、燃えるやん」みたいな感じなんですけど、無限にアイデアが浮かぶ中でどれを作家として世の中に発表していくかっていう選ぶ時に、一番説得力があり信じられるものを選ぶんです。燃えるって美しいと感じるのは何故だろうか、一方命って何だろうかとずっと考えてた時にそれぞれがリンクして、これしかないと。そういう感覚ですね、どの作品でも。手で描いたのも最初は全く手で描くつもりではなかったです。目の前にキャンバスを並べて、他の方法で描こうと思っていたんですけど、ある時テンションが上がりすぎて手形をバンバンしてると・・・

内海:すごいですね、いろいろ試しているうちに生まれるものなのですね。

本橋:その手で描くのが楽しい!ってなって。で、その翌日、この楽しさに本質的なものを感じて、これって何だろうって考えたんです。自分はすごく何かを感じていて、それを伝えたい・残したい・証明したいと思っているときに、それを手で描くことは自分の中の「自分は”今ここ”にいるんだ」という叫びをダイレクトに強く表現することなんだと感じたんです。それが人間の根源的なものに思えて、調べたら、今発見されている中で一番古い絵ってネアンデルタール人のラ・パシエガ壁画って言われているんですけど、それは手形なんですよ。つまりラスコーの壁画のような具象の壁画よりも前の時代、一番最初の芸術って、己の手型なんです。ネアンデルタール人って今の僕らとは違いますが、ネアンデルタール人の文化で特筆すべきものとして、死者に花を手向けるって文化があったんです。ヒト科の生き物がヒトの姿になってから何万年もの間ずっと狩猟採集しかしてこなかったのに、最終的に急に死者を弔いをし始めた。仲間が死ぬっていうことに気づいて、そして死んだら戻ってこないってことに気づいて、その人たちと初めて絵を描いた人たちってだいたい同じ時代なんですよ。つまり、自分たちが永遠ではないってことに気づいたからこそ、何かを残したんだと思っていて。その絵を描いたネアンデルタール人と同じ気持ちが、時代を超えて自分の中にも息づいてる、と思い、そういう感じで描き続けています。ちょっと難しい話になっちゃいましたね・・・(笑)。

内海:手で描くことが楽しいと思う理由が、人類が絵を書き始めたルーツによって証明された・・・だからこそ、ご自身が信じるに値する表現ということなのですね。本当に感慨深いです。

本橋:「なぜ僕はこう感じるのか?」その理由を絵の歴史や人間の文化に紐づけて考えたりもしますね。あと、常に自分自身がというより、その時代を生きた人間のうちの一人が描いているという感覚です。2020年でいうとコロナ禍によって多くの人間が苦しめられた、その中で描かれた絵です。この感覚は常にですね。

内海:本当にいくらでも話を聞いてしまいたくなりますが、お時間がきてしまいました。
本日はありがとうございました!

本橋:こちらこそ、ありがとうございました!

Profile
           

本橋 孝祐(もとはし こうすけ)

1989年兵庫県生まれ。
飛沫や素手など前衛的な手法で、日本人的な”見立て”や”禅”の感性と共に描かれ、哲学や人類学的な考察が入り混じった、精神性や意味性を重んじた作品が特徴。
アートの創造・鑑賞を人類特有の「確認の儀式」として捉え、「人間にとって確かな真実」の表現を自身の制作テーマとする。

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