【ARTIDE After Talk③】志水 堅二さん
先日、プロジェクト初のアイテム「マルチコンパクトウォレット」をクラウドファンディングMakuakeでリリースしたARTIDE。
TIDEディレクターの内海が参画いただいた気鋭芸術家の方々を訪ね、「アートと地場産業の融合」をテーマに取り組んだ当プロジェクトの過程での心境や思い出、そして時に思わぬお互いの本音が漏れてしまった対談の模様をお送りします。
三人目は志水 堅二さん。今回は志水さんのまるで秘密基地のようなご自宅兼アトリエにお邪魔し、お話を伺いました。
ARTIDEページやnote(志水さんインタビュー)と一緒にお楽しみください。
撮影:久保 秀平
インタビュー・構成:岸本 圭介
※対談は2020年11月に行いました。
Index
Talk
#アイドリングトーク
内海:昨日今日とARTIDEのインタビューで各作家さんのアトリエをハシゴしていたのですが、締め括りが志水さんで本当良かったなぁと。インタビューはずっと楽しい時間でしたが、なんだかここは飲み会の最後のシメに行くバーにいるような気分です(笑)。流れるBGMもジャズでめちゃくちゃいい気分に浸れます。
志水:ウチは夜の店だからね(笑)。
一同:(笑)。
内海:ここは本当に楽しい空間ですね(笑)。ここで仲間と集まってお酒を飲むのも最高ですよね。結構人遊びに来られますよね?
志水:そうですね。ちなみに、このアトリエの隣には本当のバーのお店があるのですが、ウチの玄関のほうがバーっぽいからか郵便屋さんや宅配便屋さんが間違って「こっちがお店かな?」と思って間違って入ってきちゃうことあるんです(笑)。迂闊にドアの鍵を開けておくと大変なことになる(笑)。
内海:これは完全にお店だと思いますよね(笑)。
志水:しまいには「ここは何ですか?」って言われて。「いや、家です。」って(笑)。まぁ、外観だと何やっている人が住んでいるかもわからないし、家なのか事務所なのかもわからないよね(笑)。
#本編
内海:本日は宜しくお願いいたします。今回はARTIDEプロジェクトをぜひ一緒に振り返りたいと思ってます。我々TIDEとしては初めての挑戦でしたが、志水さんから見て、一緒に作っていく過程での心境や思い、完成した作品見ての感想、その辺りをざっくばらんに伺いたいです。
志水:わかりました、宜しくお願いいたします。お酒も用意したので、楽しくやりましょう。
—— このARTIDEで革財布の上にアートを表現するという話がきたとき、どう思われましたか?
志水:実は、割とこの形(完成品)になるの早かったんです。
—— このじっとTIDEのマルチコンパクトウォレットの型を見つめてたら、パッと浮かんできた感じですか?
志水:そうそう。送っていただいた展開図を見てあれこれ試してみたら「あっ、これだな」と。
最初、原画を革財布に落とし込むって良いアイデアだと思ったんだけど、絵にもいろいろあるわけで今回はその原画をそのまま落とし込んでもちょっと革財布にリンクしないように思えて、それじゃつまんないなと。
一方で、財布を使ってくださる人は原画のことなんて忘れちゃうだろうと思ったわけ。だから、これはこれでスタンドアローンで見て楽しめるようにしたかったんです。かといってブリドリー(時間の象徴として描いているキャラクター:ブリキの鳥のブリドリー)をもろに描くというのもなんだか芸がないなと。
志水 堅二さん
内海:最初は原画をそのまま落とし込むことをイメージしていたんですよ。でも、いい意味で裏切られました。
志水:それはもうね、一番簡単なパターンですよ(笑)。
内海:むしろ、そうにしかならないだろうなと思ってました(笑)。
志水:それはねー、浅いね(笑)!
内海:(笑)。
志水:そのまま描くことは落とし込むとは言わない(笑)。
内海:いや、他に方法がないなと思ってました(笑)。
志水:もしかしたら他の作家さんは多少やりやすいのかもしれないね、アブストラクトがあるから。むしろ、なぜ僕が今回のメンバーに入っているのかな、と不思議に思ったくらい。
内海:僕も最初、キャラクター(ブリドリー)が立っていらっしゃったので、どうなるんだろうな、と思ってたんですよね。でも、結論からいうとそれがめちゃくちゃ良かった。他の作家さんとは異なる個性と深みが出てて、全く違うものができて良かったなと。
志水:僕も奇跡的にこの形(マルチコンパクトウォレット)がハマったから、良かったなと。もし今後違う形、例えばもっと大きなアイテムだったら、他の作家さんも僕も結構苦労しそう。アイテム一つ一つに絵を描くのは大切ではあるものの大変でもあるから。何個もまとめてダーっと描くのは違うしね。
TIDEディレクター 内海
----ARTIDEのマルチコンパクトウォレットを11月14日にMakuakeで発売し、40分で完売し大きな反響を呼びました。
志水:ありがとうございます。嬉しいです。ただ、Makuakeで販売開始したのが土曜日でスグに完売してしまったから、土曜日がお仕事のために買えなかった方もいたみたい。歯医者さんの知り合いは買えなかったって。だから今(インタビュー当時)、ECで発売されるのを待ってくださっているみたい。
内海:発売日も個数も金額も本当にギリギリまで悩んだんですが、そのお知り合いの方のようにご都合合わず買えなかった方がたくさんいると伺っております。今後ECでの発売含めできるだけたくさんの方の手に届く機会を作っていきますので、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。あの日、Makuakeでの発売日は、僕は朝からソワソワと、家から一歩もでずパソコンの前にずっと座って。プロジェクトのこれまでを振り返りながら発売時間の14時を迎えました。そして更新ボタン押すたびに1個、5個、10個と売れていき・・・40分で完売ってなって。それまで不安で不安で仕方なかったけど、本当にやって良かったと全て報われたような気分になりました。日本全国の方と同じ時間に同じものをオンライン上でわかりあえたわけじゃないですか。これはすごいことだなと。本当に幸せです。
志水:こういう時代じゃないとできない取り組みですよね。
内海:全くゼロの状態からはじめて、構想から一年かけて作ってきたものを出して・・・緊張しながらPCの画面見てみたら何十名の方に影響を与えられたという経験が初めてだったのでそれはすごい幸せでしたね。やって良かったーと。でも、まだまだこれからなんですけど。
志水:緊張しましたよねー、いろいろ。発売したときも、その前に行ったインスタライブも緊張しました(笑)。
(志水さんのご厚意でお酒をいただきながらトークは進む)
志水:では、お酒入れますねー(笑)。 いっぱいあるからいくらでも飲んでください。
内海:ありがとうございます!いただきます。
—— 製作過程での裏話はありますか?
志水:今回シルクスクリーン(孔版印刷の一種で、メッシュ状の版に孔[あな]を作り、孔の部分にだけインクを落として印刷する方法)で表現したのには理由があって。決してラクをしようとしたわけではなく、素材と絵具の相性もありますが、僕は個体差をなくしたかった。
個体差を出したくない理由にはエディションがあります。絵を選ぶときに個体差を見て選びたいという方がいるように、エディションだって選びたい方いるんですよ。版画でも早い番号の方が良いと言う方はおられますが、早い番号だからといって中身は何も変わらないです。刷った順番じゃないんで。最初の方がよくて遅い番号だと劣化するわけでもない。版がだんだん甘くなっていくという方もいるけど、そういうわけでもない。ただ版画の場合でも自分の好きな番号ってのがあるんですよ、ラッキーナンバーだったり。
内海:なるほど!
志水:特定のナンバー例えば7/20が欲しいっていう方もいる。だから、違いがないほうがいい。それぞれ違いがありますよ、って言ったら当然比べたいと仰る。そういう心理が当然出てきます。だから、あれも見せて、これも見せてってなってきます。僕は画集にドローイングつけているのですが、ドローイングは一点ものなんです。そこがいいところではありますが、やはり選びたいってなっちゃうんです。やはり画集って7万円くらいして高価なものだから、ガチャガチャ的な感じではなく現物見て自分の目で選びたい。でも、選ばせたらキリがない。だから皆に同じだけ特別なものを送りたくて、個体差が出ないようにしました。
内海:なるほど!それははじめて聞きました。そんな秘密があったなんて。
志水:これは今まで言ってないんだけど。
内海:嬉しいです!
志水:今までやってきた中で違いがあると人は選ぶということを経験しているので、エディションは選びたい人がいるんですよ、実は今回もいる。エディションで何番だったらいいなーって。あと誕生日にしたいとか、末広がりの8にしたいとか。あと、イヤな番号もあるしね。画集ではそう言う番号は抜いたりして。
—— 今回、チャームは志水さんモデルだけですが、それを取り入れようと思った背景や理由は何ですか?個人的にはこのチャームがARTIDEの全アイテムの中で最も遊び心がある部分だと思ってます。
志水:ありがとうございます。遊び心は僕のポイントですから。背景としては購入された方が周りの方から「それ(ウォレット)何?」って言われた際に咄嗟に説明ができないのでは?と思いました。その場で原画をスマホからネット(makuake、note、TIDEページなど)で探して、こういう作家がこういう原画を描いて、それを落とし込んだらこう・・・とそんな説明を誰かにするのは難しいですよね?そこで、このチャームがあれば「ウォレットに描かれているのは、チャームにいるブリドリーというキャラクターの顔なんだよ」って説明できる。それが理由です。
志水さんのアトリエにて
Multi Compact Wallet-SHIMIZU KENJI
—— とてもやさしく、面白い理由ですね。普段使うときに、ふと誰かに「それ何?」って聞かれるシーンを想定して、作られたと。
志水:ちょっと変わった財布だからね、「何それ?」ってなるでしょ(笑)。あともう一つ秘密があって。このチャームってそのままだとブラブラしているし、邪魔じゃないですか?だから、皆さんウォレットの内側に収納して持ち歩くことが多いと思います。でも、この裏面の波模様に置くと・・・なんとブリドリーが波に乗れるの。
内海:あー、ほんとだー!そのチャームの長さも絶妙に計算されているのですね。それは全然知らなかった!すごい、これ誰かに言いたいですね!
—— このチャームそのものも遊び心ですが、そのチャームでウォレット上で本当に遊べてしまう。遊び心のその先ですね!面白いですね!
志水:いろんなことを考えますよね、僕はデザイナーさんではないけど、基本的にはやはり使う人のこと、シチュエーション、シーンを考えましたね。自分が使ってみて、使いにくかったら変えたいし、使いにくいものは勧めたくない。だから他にもジッパーのところとか変えてもらったり。
—— ウォレットに取り入れた遊び心はユーザー目線に基づくものだったのですね。
志水:やっぱり使うものだから、使いやすいほうがいいですよね。いくらアートだっていっても。これがアート“作品”だったらいいんですよ。やっぱりこれはウォレット、財布だから。アートによって使えないものになったら、意味がないと僕は思います。
内海:我々としても、使って欲しい気持ちが強いんです。そのために作ったので。それをアート作品として買っていただいて、飾るも使うもその方の自由、というのは当然そうなんですけど、作り手としたらやっぱり使って欲しい。
志水:ブリドリーが時間の経過、時の流れ、生と死というものの具現化で始めているので、
使って劣化していってほしいんですよ。使っていって記憶が染み付いていってほしい。
昔、ブリドリーが出る前に、古道具を描いている時代がありました。ブリキのおもちゃの前に、かなづちや氷を切るでっかい鋸(のこぎり)とか。そういうのを古道具屋さんから買って描いたりして。それらは使っていた人が誰かはわからないものだけど、イメージが膨らむじゃないですか。こんな人が使っていたのかな?とか、何年くらい使ったらこうなるんだろうとか。その人の記憶が染み付いているわけですよ、古道具に。そういうのを感じながら、絵にして記録していくというのがそのときの研究でした。その時の流れで、誰かが遊んだであろうブリキのおもちゃを見つけて描くようになり、そこから鳥のおもちゃに。
僕はそれまで顔のあるものを描いてこなかった。それまでは枯れた花とか、錆びた古道具とかを描いてて。顔を描くと表情とかが出せて、さらに物語が作れますよね。悲しんでいる顔だと悲しい絵に、楽しんでいる顔だと楽しげな絵に。花の時は見る人に捉え方を委ねてました。見る人によって寂しくなるとか、元気になるとか、真逆だったりする。例えば赤い色を見たときに今の私には強すぎて気分が悪くなるという人と、元気になるという人がいるんですよ。人それぞれなんです。僕は表現はあくまで表現であって伝達ではないので、僕が思ったことを伝える必要もないなとも思ってました、20代の頃は。「これが自分の意図と違う捉え方されてもいい」ともう自分で好きに描いていました。ですが、顔や表情を描くと見る人と描く人の感情のズレがない、ということに気づいて。かつてはどうせ伝わらないからいいやと思ってたんだけど、伝わったら伝わったで嬉しいんですよ。
その後で日本のキャラクター文化って独特だなって話を本で読んで、町内にもキャラがいて市にあったり県にあったり。くまモンのように町、市、都道府県にだってキャラクターがいる。そこの必要性が独特なんですよね。結局、僕が生きた時代を残さなきゃいけない。こんな時代に生きてました、というのを作品に込めておきたいので。それでキャラクター文化大事だな、と。かつて僕は美術じゃないと思ってました、キャラクターは。漫画とは線を引いていましたし、僕らの先生も漫画っぽいよねは悪い言葉として使ってました。今はもうもうそんなのないと思いますが。
内海:見て第一印象だけで判断する時代は終わったのかなと思いますね。本当に今年一年いろいろありすぎて、それが露呈したといいますか。人って何を考えているかわからないじゃないですか。どういう経験したのかもわからないし。当然第一印象はあるんですけど、若い人はそうじゃないんでしょうけど、年を重ねれば重ねるほどいろんな経験をしてきているわけで。その場で見えた印象といろいろ深く話をした時の印象が180度変わったりするんですよね。アートもそうですけど、見た目だけで判断するのは面白くないですよね。でも、僕はもともと全くアートに興味がなかったのですが(笑)。そういう見方ができるんだとわかったことがよかったです。
志水:それは本当に大事なことだね。
内海:今はアートに触れたくて触れたくて仕方ないんです。僕、以前は本当にアートや美術館に興味がなかったんです。でも、今回ご一緒させていただいて見方が変わったのが良かったし、僕は今までアートに興味なかったと言える、いや言っても許される優しい空気感が嬉しかった。そんなこと僕が言ったら「は?」と思われる怖さもあったのですが、今回いろんな作家さんとご一緒させてもらって「アートはそんなに崇高なものではない、みんないろんな表現しているんだから、みんな同じだよ」という感じがありました。これまで、なんだか別世界に生きているカテゴリが違う人たちだと思っていたのがグッと身近になりました。
志水:あー、なるほどですね(笑)。自分の耳を自分で切ったりするか、どうしても奇行をする人の話題ってずっと残るし、目立つし、皆好きですよね。そしてそういう人が絵を描いていると刷り込まれているところもありますよね。今の若い子にはないと思いますけど。表現者は実は多いとはいえ、まだまだマイノリティな存在ではあると思いますから。
内海:今回、ARTIDEでいろんな作家さんとお話しさせていただく機会があって、皆さん本当に自分に向き合ってらっしゃる。感覚的なもののみならず、深く深く洞察検証して向き合い表現する。そんな皆さんの人生との向き合い方をを聞ける機会があってめっちゃ楽しかったです。
志水:世の中知らないこといっぱいありますよね(笑)。絵描きでおかしな人ってどんどんいなくなるんですよ。本当におかしな人が始めたりもしますから。でも、まず大学に入れないんですよ、おかしな人って。予備校にはおかしな人が一番多かった印象ですが、社会に出るともういないんですよ。ちゃんと社会性があってお仕事ができる人しか残ってない。例えば締め切りを守るとか。
内海:そういう意味でいうと、今回この5名の方で本当に良かったなと思いました。もちろん、それぞれ個性が異なるのですが、本当にご一緒させていただいて学びが多く楽しかったです。
内海:飲み会で最後の一軒が心地よくずっと話して止まらないように、本当にいくらでも話をしてしまいたくなりますが、お時間がきてしまいました。本日はありがとうございました!
志水:また遊びに来てください(笑)。こちらこそ、ありがとうございました!
Profile
志水 堅二(しみず けんじ)
1971年 愛知県名古屋市生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。
多数の個展、グループ展に参加する志水の作品には、桜や富士山といった日本画の古典的要素が多く取り入れられているが、他にはないユニークさを備えているのは、主役として描かれるブリドリーの存在に他ならない。
多くの古い玩具を描いているうちに時間の象徴として誕生したブリキの鳥「ブリドリー」。可愛い玩具としてだけではなく、鳳凰やや八咫烏などにも変幻自在にさまざまな姿で描かれている。
洗練されたブリドリーの世界を描き出す作家である。
2020年だけでも東京で3回、大阪で1回展示を行なっており、ブリドリーの持つ世界観を多くの場所で発表している。
Multi Compact Wallet-SHIMIZU KENJI