ARTIDE 藤川さき
1990 年 東京都生まれ
2013 年 多摩美術大学絵画学科油画専攻 卒業
身の回りの環境や対話から生まれた興味や疑問をもとに、作品制作を行なう。主に人の意思に通じた絵画表現を多く発表する。
2020年秋に開催された、他者の遺品に描写を重ねた個展「痕跡への加筆」以降は、「目の前に生きている人々」に対する興味がより一層強まり、現在はその人々が生きる姿を作品のパーツとして構成し、世の中のかたちとしてリアルタイムで記録(制作)を繰り返している。
数々の画家たちから語られた「生きることは描くこと」の言葉に賛同し、日々アトリエで筆を動かす。
2022年春、日本(東京)と中国にて個展予定。
「ART×TIDE」
Wallet Shoulder-FUJIKAWA SAKI 「TIDE」
なぜ表現しはじめたんだろう
2004年頃、インターネットのお絵かき掲示板(簡易的な絵を描くツールがついた掲示板)に、親のマウスを使って書き込みをしたことが始まりでした。
うさぎやりんごのような簡単なもの描くことしかできませんでしたが、そこで自分の手から作られたものを通して全く知らない人と出会える嬉しさや、また、他人の創作物を自分の感覚で受け取る行為の面白さに目覚めました。
当時は、中学生としてやらなければいけない勉強からの逃避のような感覚で画面の向こうの知らない人との交流を楽しんでいましたが、大人になってからその時間を振り返ると、誰しもが持っている「生活」の呪縛から解かれるその瞬間に安心しながら純粋に内面を見つめ、それがあったからこそ現実に帰ることができるような、大切な時間だったように思います。
作品で何を表現したいんだろう
生きている人全員が「生きるべき」人であると仮定した時、全ての人を観察対象に入れ、目の前にある「現在」そのものを記録者として描きとめ続けることに挑戦しています。
絵具を重ね続け完成に導くことは細かな選択の繰り返しであり、この目に写ったものや、受け取った言葉たちが、日々の手先の作業に全て影響しています。
乾燥が遅いがゆえに、下の色(過去の選択)と干渉しやすい油絵具という素材で生まれた隠しきれない泥臭い痕跡、いわば生そのものの痕跡たちが、私たちが日々繰り返している無限の人生の欠片であり、その欠片を見つめた他者から生まれる新しい言葉の数々で、自身が壊れ、生まれ変わり、また新しい発見が生まれる。その愛しい循環を、自分が理由すらわからずとも好きやり続ける「描く」行為を続ける為に、やっていきたいと思っています。
作品に向かい合う時間以外は何を気にしているだろう
家族との時間に充てています。 作品に向かい合う「制作」は自分が出せる最大限の美しさを追い求め、生を表現する分だけ死にも近づく往復のような儀式ですが、家族と過ごす「生活」は穏やかな時間です。この2つのバランスの中で、現段階の私の人生は作られています。
表現の未来はどこにあるのだろう
予言はできません。自分と他人の区別を以って、尊重し合えるようになれば、自ずと美しい表現に溢れると思っています。私は今に至るまで、他人からそれをたくさん見させてもらったので、未来を作る側としては嘘をつかないように日々を続けていこうと思っています。
TIDEともの化する表現に何を期待するだろう
人の生活に根ざした素材を使って生活に必要な「モノ」を作ったことがないので、そのような能力を持つ方々の力を合わせた時、どのような化学反応が起こるのかが未知で、とても楽しみです。
物を作る時の根源的な衝動として、「自分自身がなんらかの刺激によって壊され、更新された瞬間」があります。
その瞬間に次の筆の動きが見つかる感覚があり、作ることはその更新の繰り返しに感じています。
今生きている人全て、おそらくこれからどこかで大小さまざまな傷を負い、それを乗り越えた先(または逃避した先でも良いと思っています)に存在する新しい自分や世界に出逢い、限りある命を生き続ける、その痕跡全てを肯定するならば、モノの使用者そのもののように、(大切に使ってもらいたい気持ちはありますが)「傷がつく(=モノと共に生きる)」ことを肯定する、傷すらその人の生きる証になることを前提とした何かが生まれさせられたら面白いなと思っております。
今回の原画と作品に込めた思い
原画は、ARTIDEのコンセプトの中にある「潮目を変える(形成を逆転する)」というワードから着想を得て描きました。 日々の細かな選択の繰り返しで、それぞれの人生は一つずつ「作られていく」。 形勢を逆転し、運命を変えるかもしれない選択のきっかけは、常に自分の外側の世界に転がっています。 ウォレットショルダーに施された潮目の柄は、一つ一つの運命が混ざり、化学反応し合う様子に見えました。 今回、初めてこのようなコラボレーションを目的としたコンペに飛び込んでみたことも、私の中での一つの潮目、つまり運命を変える行為にあたります。 そしてその創作物たちの断片が、見てくださる方の人生に少しでも触れる瞬間があるのなら、それも私の世界と混ざり合う潮目となるかと思います。 原画は、その混ざり合いを目の当たりにした瞬間に本来の「決められていた」運命が壊され、新しい運命が作られようとしていく時の、またたきのようなものをイメージして描きました。 ウォレットショルダーは、その潮目の中に存在しながら揺らぎ、変化し、己の手で運命を舵取りしようと奮闘することをやめない「何者」かを描きました。
私は今回のこの企画で初めて気づきましたが、手作業が入る以上、量産をする感覚で描くことがどうしてもできませんでした。 ですので、普段の作品と全く同じ密度と、力の込め方で描いています。 同じものが作れないのは、この「ウォレットショルダー」という形式でのコラボレーションでは質として不安定である反面、このウォレットショルダーには、間違いなく世界に二つとして同じものはありません。 あなたの生活と共に、あなたと共に生き、傷つき、その傷すらも否定したくない気持ちで、同じく使い続けたら嫌でも傷が付くであろうウォレットショルダーに絵具を乗せました。
あなたと私の創作物が、刺激を与え合い、時に傷を肯定し、運命という潮目で出会えることを願って作っています。
略歴
[個展]
2012 年「petit ”GEISAI”#15 審査員賞受賞者展 藤川さき個展」hidari zingaro、東京
2015 年「日々と同期されるアート」d-labo ミッドタウン、東京
2015 年 「新世代への視点 2015 藤川さき展」ギャルリー東京ユマニテ、東京 2016 年「いきるをかける」マサタカコンテンポラリー、東京
2016 年「藤川さき個展」金魚空間、台北
2016 年「壊れなきゃ生まれない」Art Complex Center、東京
2017 年「王冠のプレゼント」絵本専門店青猫書房、東京
2017 年「藤川さき の 準ガラクタ」Art Complex Center、東京
2017 年「蟷螂の斧」ギャラリーondo、東京、大阪
2018 年「未知のためのエスキース」ギャラリーondo、東京、大阪
2018 年「未開の共存」Gallery Yukihira、東京
2019 年「祈りの断層」ギャラリーondo、東京、大阪
2020 年「痕跡への加筆」Gallery Yukihira、東京
2020 年「無濾過の絵具」River Coffee&Gallery、東京
2022年 日本、中国にて個展予定
[受賞]
2011 年「petit ”GEISAI”#15 審査員賞 ob 賞」受賞
2014 年「TAGBOAT ART FES 2014 審査員特別賞 杉田 鐡男(GALLERY MoMo)賞」受賞
2014 年「TAGBOAT ART FES 2014 審査員特別賞 森下 泰輔(アートラボ・トーキョー)賞」受賞
<ARTIDE Vol.2 特設ページはこちら>
https://tideisturning.com/pages/artide-vol-2